REIT – 成長戦略

REIT

さて、前回はざっくりREITと株の違いを見てみました。
今回はREITに絞って、その成長戦略を見ていきましょう。REITにとっての成長とは、投資法人全体としての営業収益の増大を指す場合と投資口当たりの利益 (EPS) の増大を指す場合の2種類あることを念頭においてください。我々個人投資家にとって興味があるのは後者です。しかし投資法人にとっては規模を拡大することで経費の節減や業績の安定性を得ることができるため、EPSを犠牲にしてでも規模拡大を追求する局面があります。

REITの経済活動はいたってシンプルです。
資金調達 → 物件購入・入替 → 賃料収入を得る、という流れです。
このそれぞれのステップを工夫していくことでREITは成長していきます。

やはり具体例がある方が分かりやすいと思いますので、私が2012年から保有しているユナイテッド・アーバン投資法人の2016年11月期(26期)の決算を例として見ていきたいと思います。


資金調達

投資家にとって最も重要なステップです。
資金調達の方法は増資・借入・社債の3つです。

借入や社債の発行は投資口数を増やさないため、これによる成長はREIT全体としてもEPSとしても成長します。新たに借入を行わずとも、より低金利の借入先に変更することでも支払利息が減り経常利益は向上するので有用です。一方で、借入を増やしすぎると金利の上昇や景気の悪化で倒産するリスクが上がるため、高くなりすぎないように配慮が必要です。LTV ( loan to value / 有利子負債比率) という指標で評価され、それぞれのREITはLTVの上限を決めている場合が多いです。現在は極めて低金利ですからLTV上限でも問題ないと思いますが、金利上昇局面ではLTVを引き下げるのが妥当です。

さて会社の成長のためにどんどん資金調達を行いLTVの上限まで借りてしまった場合、さらなる借入を行うには自己資本を増やす必要があります。しかし、前回見たようにREITは利益の90%以上を分配するためほとんど内部留保できません。残された手段は増資しかありませんから、増資→LTV低下→借入→LTV上昇→増資というループで投資法人は規模を拡大していきます。増資は構造上やむを得ないものではありますが、希薄化を生むため注意が必要です。増資に見合った利益を上げられない場合、EPSは下がります。

ユナイテッドアーバンは6分割やREITの吸収合併を間に挟んでいますが
第01期    83,738口/ 38,596百万 借入金29,000百万 EPS 2047(分割考慮後)
第26期 2,953,022口/292,411百万 借入金277,407百万 EPS 3183

13年でEPSが1.5倍になったようにも見えますが、第6期の時点でEPS2866円(分割考慮後)もあり、規模は大きくなってもEPSは実際には大して増えていない。日本コマーシャル投資法人吸収直後のEPS2238円から比べると徐々にEPSは増大傾向ともいえます。
LTVに関しても第15期に56%もあったのに、第16期に大きな増資をして以降低下傾向で現在は37%となっています。ここ5年はプレミアム増資とはいえ増資を乱発しまくってます。そろそろ増資から借入へと切り替えて欲しいところです。

物件購入・入替

調達した資金を物件の購入に当てる工程です。オフィスやホテル等の専門リートを標榜する場合には選べる物件が限られます。
有利な物件を得るためにはスポンサーとなる企業が重要になってきます。ここでいうスポンサーとはREIT資産の運用を行う会社の持ち主のことです。ユナイテッド・アーバンでは丸紅95%と極東証券5%になります。主に丸紅の力で有利な物件を探し出して購入へとつなげていきます。

また採算の悪い物件を売却して採算のよい物件を購入することも大切なことです。また収益性が同じ場合でも大口の顧客1件で売り上げる物件よりも多数の中小口客が付いている物件の方が退去リスクが低く、収益安定性を高めるうえで重要になります。

この入替の過程で売却益が出る場合があります。個人的には売却益に関しては内部留保されるべきと思うのですが、売却益も利益ですからほぼ全てが分配されます。これが高額になってくると「REITが安い?」の記事のスターアジア投資法人のように巡行利益分2700円+ 売却益分1600円の分配金という実力以上の分配が行われる場合があります。内部に留保して次への投資に回せば巡行利益が増えるというのに、これを分配してしまうがために将来の増資を招くというのは納得できません。

いずれにせよこの項目は個人投資家レベルでは妥当な物件評価もできないし、介入もできないのであまり見るべき項目はないように思います。売却益による特別利益に注意することと、物件の地理的な分散を見る程度でしょうか。

賃料収入

賃料収入はREITの収益の源泉です。
見るべき項目はNOI (Net Operating Income / 純営業収益)になります。NOIは具体的な収益額で見るより、利回りで見た方が分かりやすいため、物件の取得額で割ってNOI利回りを算出します。単純に物件を買った金額から見ていくらの金額が残るのかを見ている利回りになります。
損益計算書で見る場合には賃貸事業収入から賃貸事業費用を引けばいいのですが、賃貸事業費用には減価償却費が含まれていますのでこれを差し引けばNOIが出ます。あとは物件の取得額の総額で割ってください。

賃料収益を上げる方法は主に3つ。
・賃料を値上げすること。
・稼働率を上げること。
・経費を削減すること。

投資によって物件価値を上げて賃料を値上げしたり、不動産相場の上昇を交渉によって相手に呑んでもらう必要があります。稼働率向上も日々の営業努力が大切です。経費に関しては投資法人の規模の増大で一部は削減できることでしょう。ただ、これらの3点を注視してもNOI利回りが低ければ意味がないのであって、結局NOI利回りさえ押さえておけば必然的にこれらの3点は充足されているわけです。極端な話、NOI利回りが金利を超えてさえいればREITに利益が出るわけで、リスクを無視すれば限界まで借入て物件を購入してくれた方がEPSは高くなります。

 

長くなってきたので次回へ続きます。

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