優待クロスのコストについて

優待

優待クロス取引とは

低リスクで株主優待をGetする方法です。具体的には欲しい銘柄を現物買いと信用売りで両建てを行い、株価の変動リスクをなくして優待の権利を取ることを指します。
昨今では”優待タダ取り”などど言われ、証券会社のHPでも盛んに喧伝されています。証券会社がPRするということは当然証券会社にも旨みがあるわけです。優待という制度のあり方、歪さを見ていきましょう。

株主優待

株主優待とは、本来は安定株主に対して、試供品を送ったり自社製品の広報を兼ねて物品を送るものだと思います。それが現在ではクオカードの優待を筆頭に、金券類やカタログギフトなど、およそその会社の業容とは程遠い内容の優待が跋扈しています。こういった株主優待は株価の下支え要因になるほか、優待を目的とした投資を呼び込むことから優待の新設を行う企業も増えています。
根本的に金券類を優待として送ること自体が問題ではありますが、この問題に拍車をかけているのは保有株数と優待の価値とが比例しない点です。多くの場合、最低単元のみ保有する方が資金効率がよく、大口になればなるほど優待の価値は相対的に小さくなっていきます。結果として最低単元を保有する個人株主が増え、優待や株主総会、配当金の支払いなどに係る事務費用の増大を招きます。本業で利益を追求しながら、こういった馬鹿馬鹿しい費用が発生するなんて馬鹿馬鹿しいと思いませんか?

とまあ制度に対する不満はあるのですが、不満を並べるだけなら誰でもできます。株主優待と制度が一般に受け入れられ流行している以上、投資家や証券業などはそれを如何に利用するのか、という話になります。

分かりやすいのは証券業者の動きです。
「優待タダ取り」「ノーリスク」などと喧伝し、個人投資家にクロス取引を推奨しています。実際には売買手数料がかかるのでタダでもないのですが、手数料収入を得るために優待を餌に個人投資家に売買を進めているのです。

どうすべきか?

では自分が得するためにはどうすべきでしょうか?
株主優待があることにより起こる事象は以下の通り。

・優待品がもらえる。
・配当+優待率が考慮され、株価が下がりにくい。(and/or 上がりやすい)
・優待の新設、廃止による株価変動

1つ目の優待がもらえるのは分かりやすいですね。配当のみの銘柄と比べて純粋に優待分は特になります。これは後程詳しく見ていきます。
2つ目の株価の下支えの側面については、株価の下落局面に強いため分散投資の対象として、損失軽減のために有用だと思います。ただし、優待の改悪や廃止の場合には、そのメリットが消し飛びデメリットとして降りかかってくるため注意が必要です。
3つ目は個人レベルでは予想が困難で、これを狙って投資するのは困難なように思います。

優待取り

かなり回りくどくなりましたが、優待をGetする場合について考えます。
その会社の業績が有望で、長期保有の対象である場合には純粋に得になります。

会社の業績には興味がないが、優待には興味がある場合にどうするのが良いのかを考えます。

1. 現物買い → 権利取り後に売却
2.現物買い+信用売り → 現物売り+信用返済買い

一番シンプルなのは1番の現物買いです。
これは優待と配当を貰い、権利日後に売却します。
リスクとしては。配当落ちで権利日後には株価が下がることです。
配当金額 以上に株価が下がることが多いため、配当と優待をもらってもマイナスになる場合があります。

2番の方法は上記の株価の下落リスクを低減するものになります。俗に「タダ取り」と言われているものですね。
買値と売値が同一の注文を出すことにより、株価変動による損失を0にできます。
ということは売買手数料だけで優待品がもらえることになります。

クロス取引に係る費用

では具体的に費用を見ていきましょう。
手数料形態の例として、SBI証券のスタンダードプランを例に挙げます。
売買代金は30万の想定で、現物取引手数料270円、信用取引手数料194円です。
信用の金利については計算が面倒なので3.65%で仮定して、1日の金利としては売買代金の1/10,000の金額とします。

1.現物買い → 現物売り
まず現物取引は片道270円かかりますから、売り買い併せて540円の費用がかかります。

2. 現物買い+信用売り → 現物売り+信用返済買い
まず現物取引は片道270円かかりますから、売り買い併せて540円の費用がかかります。
信用取引は片道194円ですから、往復388円です。
加えて、信用取引には金利がかかります。30円ですね。
この388円+30円が株価変動を消すための経費になります。

1.現物買い → 現物売り
手数料 計540円

2. 現物買い+信用売り → 現物売り+信用返済買い
手数料 計985円

さて、ここからはさらに踏み込んだ話です。
現引/現渡を組み合わせて行った場合は信用取引の手数料は現物取引より安いです。金利を加味しても、一回の取引が数百万の単位にならない限りは常に信用取引の方が得になります。
「現物買い」は「信用買い+現引き」に置き換えた方が手数料が安くなります。

ということは
3. (信用買い+現引き)+信用売り → 現物売り+信用返済買い
信用買い+現引きは194円+金利30円
現物売り 270円
信用取引の往復 388円+金利30円
手数料 計912円

さらに見ていくと、現物売り+返済買いで無駄があります。
現物を持ってますので、これは現渡ができますよね?

4. (信用買い+現引き)+信用売り → 信用現渡し
信用買い+現引き 194円+金利30円
信用売り+現渡し 194円+金利30円
手数料 計448円

なんと信用取引1回分まで費用が削減できました。(金利は2倍ですが)
現物を売買するのより安い上に、株価の変動リスクも抑えた状態です。

具体例

では例を見てみましょう。
7164 全国保証を1単元売買してみました。

SBI証券では信用手数料は決済時点の手数料が全てです。
上図の1,2段目は決済前ですので手数料は金利を除いたものが例示されているだけで、下2段の手数料は金利を含んだ手数料になっています。

ですので、この例の場合、
3段目の215円(取引手数料180円+金利35円)+ 14円(税)
4段目の378円(取引手数料180円+金利198円)+ 14円(税)
合計621円がこの取引に係る費用です。

これで得られるものは優待のクオカード3000円分になります。
実態としては621円を払って3000円のクオカードを買ったことになります。

ここで4段目の金利が高いな、と気づいた方は鋭いですね。
今年3月の場合は金曜日が権利付き最終日になるため、権利取り後に売却しようとすると土日を挟んで月曜日に売却することになります。ということは金,土,日,月の4日分の金利が掛かります。

ここまで触れませんでしたが、最後に忘れてはいけないリスクがあります。
それは逆日歩です。詳しくは説明しませんが、空売りをする場合には制度信用ではなく、一般信用を利用するようにしてください。

あと、配当関係についても説明しませんでしたね。
現物配当がある代わりに、信用売りの分の配当を納める必要があります。
結局プラスマイナス0なので気にする必要はないのですが、現物配当は配当所得、納めた配当金相当額は譲渡所得の費用になるので費目が変わる点だけは注意してください(特定口座の源泉徴収の場合にはこれすらも意識する必要はありません)。
確定申告で返って来るのですが、源泉徴収のされ方の違いで一時的に配当額の5%程度手元のキャッシュが減ります(現物配当は約20%源泉徴収の80%のcash in, 配当金相当額は約15%源泉徴収の85%のcash out)。なので高額のクロス取引する場合には、資金繰りが悪化しないように注意してください。(実際には1000万の売買で5%配当だとしても、2.5万程度なので誤差ですが)

まとめ

優待クロス取引とは証券会社に手数料を払って優待品をGetすることです。
費用としては50万までの取引で概ね500-600円程度、100万までの取引で1000円程度の金利+手数料になります。
最も重要な点は、制度信用で信用売りを利用しないことです。逆日歩のリスクがあるので、大損する可能性があります。

私個人は、一般信用で権利付き最終日に残っている銘柄のみクロス取引をすることにしています。数日前から金利を払ってまで欲しい優待もないですし、ましてや逆日歩で損をするなんてバカみたいですからね。あくまで優待はおまけです。優待が改悪や廃止される可能性があるなど、リスクを取ってまでやることではないと思います。
なにより手間のわりに金額が小さいです。1000円のクオカード100枚貰ったって、たった10万です。資産規模が数百万程度ならインパクトがあるんでしょうが、数千万ともなってくると相対的に価値が低下します。優待率が保有株数に比例しないせいで、大きな金額持っていても有効な投資先がないので持て余しまうことも多いです。だからといって日々一般信用の残高を確認するのも面倒。クオカード自体の使い道が特に思い付かないせいもありますが、無理しない範囲で取れるものだけ取るのがいいと思います。

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